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香落渓〜室生
東海自然歩道越えツーリング


========= ツーリングデータ ================
日時:
  1996年 12月 1日
コース:
  近鉄大阪線名張駅=青蓮寺ダム=青蓮寺湖=香落橋==(香落渓)==横輪
  =日無橋…(済浄坊渓谷)…林道合流==(林道長野線)==−クマタワ……
  (南松谷)……大薮橋−落合橋−−(林道宇野川線)−−宇野川橋==室生寺
  ==室生路橋==国道165号==美榛温泉=榛原駅
   ※横輪〜室生寺は東海自然歩道
    (=舗装路、−ダート林道、…登山道、カッコ付きは道路・範囲名称)
参加者:
  伊藤一成(筆者)、須田 君、大坪 君
使用車種:
  マウンテンバイク(山岳対応装備)
===================================

■ よりによって

 その日は寒かった。近鉄急行を名張駅で降りた瞬間、その寒さに縮みあがってしまった。
 駅前で輪行袋から取り出し、バイクを組み立てる。寒さで手袋が外せない。気温は摂氏零度をちょっと下回っている。駅前に入ってきた車には雪が載っていた。
 時間は10時ちょっと前。まずは青蓮寺ダムに向かって出発した。しかしいきなり道を間違えた。寒さで判断力も鈍ってしまっていた。
 風が強く橋の上では呼吸もできないくらいだ。気合いを入れて漕がないと風で振られてしまう。
 青蓮寺ダムまでのきつい登りが始まった。厚着をしているので、漕ぎにくい。風が正面から谷を通って吹きつける。最初の難関だ。
 何とか一息にダムまで登り切った。距離は短かったが朝一番の登りで応える。ダムの管理所のわきの駐車場で最初の休憩を取った。対岸の山は白いものをかぶっている。木々自身はまだ紅葉が残っていた。
 弁天橋でダム湖を渡り、香落渓へ向かう。香落橋をやり過ごすと道はだんだんと渓谷の雰囲気を帯びてくる。両側が断崖絶壁の深い渓谷だ。近畿で指折りの景勝地で、紅葉シーズンには多くの人出がある。しかし今日は車もあまり通らない。通る車も止まって景色を眺めるわけでもなく、通り過ぎてしまう。
 途中、所々で休憩と写真を撮りながら走る。稜線に積もった雪が強い風で吹き飛ばされて舞い上がるのが、遥か頭の上の方に見えた。雲の流れるスピードも驚くほど早い。空は青空だが、谷が深いので日光は入ってこない。また日光に当たったとしても、暖かさを感じるよりも風で冷やされる方が早かった。
 左手に倶留尊山の独特な姿が見えてきた。そちらへ上がる分岐を見送り、先へ進む。渓谷は広がり、集落の中を行く。
 向かい風と寒さで思うように進まず、横輪の分岐に着いたのは昼前だった。本当はハイカーとなるべく出会わないようにするため、午前中にピークのクマタワにたどり着くはずだった。しかし、今日はハイカーは全くいない。途中の室生寺大野駅、赤目口駅でもほとんど人は降りなかった。今日はハイカーと出会うことはほとんどなさそうだ。

■ 美しくも冷たき谷

 分岐の横にあった酒屋の前にベンチを借りて昼食を食べる。私と須田君は弁当だが、大坪君はカップラーメンとポットでお湯を持ってきていた。
 食事を済ますと分岐に入り登りはじめる。この道は峠を越えて赤目口駅の方へ続いている。私たちは途中から東海自然歩道に従って分かれるのである。
 その登りはきつかった。赤いスポーツカーが追い越していったが、暫くすると戻ってきた。すぐに理由は分かった。先へ行くと路面に雪が積もっていたのだ。奥香落ロッジの前を通り過ぎると、だんだんと雪の量が増え、真っ白の道に車のワダチがはっきりと残っている。私たちはとっくの昔にバイクを降りて押しになっている。雪を踏むと柔らかくて気持ちがいい。
 東海自然歩道の分岐へやってきた。やはりその細い道も雪に覆われている。ちょっとだけ休憩を取ると、その細い道へ入っていった。何とか乗れる路面である。すぐに沢沿いの道になった。結構水流は激しい。
 道は川のそばの切り立った岩の下に付けられている。ほとんど平らだが、雪が積もっているため、路面の状態が全然分からない。念のため、バイクを降りて押すことにした。雪の上には足跡は一つも無く、私たちが本日一番乗りである。しかしもう昼をまわっている時間を考えると、今日は私たちだけしか通らないかもしれない。
 やがて滝が現れた。斜めに大量の水が落ちる美しい滝である。道はその横を階段で登っている。階段にも雪が積もっているので、バイクを担ぎ慎重に一歩一歩登っていく。
 また道は水平になった。しかし次の階段の手前がきつい坂であった。先頭を歩いていた私は雪で滑って登れなくなってしまった。「登れない」と後ろの二人に言ったが、最初彼らは意味が分からなかったようだ。雪さえなければなんでもない傾斜なのだ。また、バイクが無ければ手すりをつかんで登ることが出来る。
 結局、3人で力を合わせてバイクを1台ずつ上げることにした。まず私の重たいフルサスバイクを持ち上げ、次に須田君、大坪君と順番に持って上げる。下って次のバイクを取りに行くのにも滑って危ない。
 はたしてピークを過ぎた後の下りが、無事に降りられるかどうか心配になった。今の要領で下ろせば何とかなるだろうが、大変には違いない。
 本当はこのツーリングは、紅葉シーズンの人出が終わり、危険な積雪が始まる隙間の時期を狙っていたのだった。しかしその計画は突然の寒波で見事に外されてしまった。今日の気温は2月のもっとも寒い時期と同じである。
 さて、第一関門を突破した我々は、今度は沢を渡らねばならなかった。石の上を歩いていけば良いのだが、その石の上に雪が積もっているので、滑る危険がある。緊張しながらなんとか渡る。
 今度は雪の乗った薮が道を覆っていた。廃道化しているのかと思ったが、先をよく見ると道は続いているようである。かき分けかき分け通り抜けると、身体とバイクが雪だらけになってしまった。
 この済浄坊渓谷を抜けるのにかなりの時間がかかってしまった。再びバイクを担ぎ上げ、何とか林道への合流点へとたどり着いたときには、思ったより疲労していた。

■ 白銀の林道を行く

 その林道は舗装路だったが、綺麗に1〜2センチほどの雪が積もっていた。ワダチも足跡も全くない。ここも私たちが一番乗りだ。しかし時間はもう1時をまわっている。予定からどんどん遅れてきている。
 雪を踏みしめながら登りはじめた。重いことは重いが乗れる傾斜である。日陰で雪が凍った所などは、バリバリと思ったより大きな音を立てる。
 2度ほど折り返した後、ダートになった。雪の下に石がゴロゴロしているようで、乗って登るのが面倒になり押して上がる。今日はダートはほとんど乗っていない。
 やがて今日のピーク、クマタワにたどり着いた。国見山から下りてくる道が合流する鞍部の峠である。しかし鞍部ゆえ、谷を上がってきた風がすごい勢いで通り抜ける。とても寒くて休憩していられないので、さっさと向こう側へ降りることにした。

■ 担いで降りる

 急な傾斜で石の段になっているので、当然乗車は出来ない。ひたすら、押し担ぎで降りていく。雪の下の石が浮き石かどうかを確かめながら一歩一歩慎重に降りる。幾度か緊張しながら沢を渡り、最後に細い丸木を組んだ橋を小股で渡るとダートの林道に合流した。

■ 林道にて迷う

 林道への出口に東海自然歩道の標識があった。何となくその標識の差し方から林道を左へ入るのだろうと思い、左へ進む。路面は一面に雪をかぶっており、ちょっとした登りである。クマタワの峠を越えたので、基本的には下りになるはずなので、おかしいとは思ったが、ちょっとした登り返しだろうと考えた。
 雪で路面は見えないが、石が転がっていることやワダチがあるので、ダートなのは間違いがない。ワダチの所に、所々綺麗な黒い路面が覗いている。あれ?アスファルトかな?と思って前輪で踏み込むとバキバキという音とともにタイヤが路面の中にどっぷり沈んでしまった。なんと水たまりに氷が張っていたのだった。
 まだまだ道は登っていく。おかしいな、とも思ったが、路面には向こうへ向かう一人分の足跡があった。
 道が右へ曲がっていくの従うと、前から中年の女性のハイカーが来た。挨拶を交わして通り過ぎる。今日初めて出会ったハイカーである。しかし前から来たという事で、道は間違っていないようだ。
 さらに登っていくと、下の足跡が途中で引き返している所に出くわした。
 むっ? ということは、この唯一ある足跡はさっきの女の人で、そしてここで引き返して私たちと出会ったことになる。つまりこの道は間違いなのだ!
 私は立ち止まり、地図を取り出し、ハンドルバーに付けたボールコンパスを眺めた。道は南へ登っている。しかし地図にはそんな道は載っていない。ボールコンパスが狂っていることも考えられるので、背中のディパックに付いている温度計付きのコンパスを見てくれるように須田君に頼んだ。須田君は言った。
「氷点下4度以下」
 誰が気温を見ろと言った? 方位だ方位! 彼はまだ我々が遭遇している事態が分かっていないようだ。
 で、結局そのコンパスも道が南へ登っている事を示していた。今日は必要ないだろうと背中にしまい込んでいたシルバコンパスを出すか、と思ったが、いくらなんでも2つとも狂っていることはないだろう。太陽の向きから判断しても南に向いている事は間違いない。私は4万分の1の「山と高原地図」をあきらめ、念のために買っておいた2万5千分の1の地形図を取り出した。しかし、こちらにも該当する道はない。
 他に分岐はなかったか2人に聞いたが、無かったと言う。もちろん私も見ていなかったのだが、念のために聞いたのだ。分岐があるとすれば、登山道からこの林道に出たときに左に来たが、その反対方向かもしれないという事だけだった。ただ直感的にはその先は違うような気がしていた。
 とりあえず、もう少し先に進むことにした。しかしなんとその林道はその先で2又に分かれていた。左は山の鞍部へと登っている。右は正面の山を巻いているようだ。地図と見比べてみたが、どこの分岐か全然分からない。
 地図を見る限り、雰囲気としては鞍部を越えるのではなく、山を巻くのが正解のようである。従って右へ行ってみた。しかし100mも進むとその道ではなさそうな雰囲気がしてきた。
 もう一度、登山道から出来てきたところからやり直そうと、引き返すことにした。そして林道をガタガタ下っていると、前からさっきのおばさんが登ってきた。おばさんも道に迷っているという。やっぱりそうだったか。
 私はそのおばさんにどこから来たのか聞いた。国見山から下ってきたのだそうだが、クマタワへ降りる道ではなく、その一本西の道を降りてきたそうだ。しかし、途中でショートカットを示す標識を見つけ、最終的に地図に載っていない道を降りてきたらしい。で、どこからこの林道に出てきたのか聞いたが、これがはっきりしない。
 私たちの出てきた登山道について聞いたが、その入り口は見たという。私たちが出てきた道以外の道を行ってみたかも聞いたが、行ったことは行ったが、その道は違うようだと言う。どの道を行ったのか聞いたが、これもはっきりしない。
 私たちの方も、この林道の先は違うようだと言った。でも、おばさんはこっちしかないと、思っているようだ。そう言えば、この林道には東海自然歩道の標識がないですね、と言うと、おばさんは周りを見回した。幸か不幸か(これが実は不幸だったのだが)、おそらくハイカーが付けたのだろう、小さな道しるべが木に付けられているのが見つかった。
 その道しるべは、左向き(林道の先)を指しており、「右に下ると室生」と書いてあった。ということはさっきの林道の分岐を右へ行けば良いのか?
 私はどうもそれは違うような気がしたが、おばさんは意気揚々とさっさと先に歩き出した。しかも速い。私たちも慌てて後を追った。
 分岐を右へ行き、さっき私たちが引き返したところから、さらに先へ進む。しかし林道はだんだん荒れ気味になり、先には材木を倒して道をふさいであるのが見えた。やっぱり間違いだったのだ。
 私たちは引き返し、分岐を左へと行ってみた。道はさらにどんどんと登っている。これは雰囲気として国見山の西側を巻いて南へ抜ける林道のようだ。地図を見る限り、そんな林道はない。
 この時点で私はこの林道が地図に載っていない道なのだと判断した。今までにも何度もそういう経験があったので、そう確信した。問題は本当のルートがどこにあるかだ。
 私はその考えをみんなに言ってみた。しかし、おばさんは相手にしない。地図を絶対的に信じているようだ。須田君もそんなに新しいように見えない立派な林道が、地図に載っていないとは信じがたいらしい。唯一、大坪君だけはいつもの呑気さで道が分からないことなど気にしていないようだ。と思ったら、時計を見て、「ああっ! 3時半や。もう1時間もしたら日が暮れる」と一応は心配しているらしい。私はちょっと安心した(って、なにを?)。
 実際問題としては、正規のルートが分からなくても、この林道は4輪のワダチがあるので、先を行けばどこかの里に出るのは分かっている。だから慌てる心配はないが、やはり正規のルートを行きたいのが人情である。それに私たちは自転車で下ればいいが、おばさんをほって置くわけにもいかない。
 意見はまとまらなかったが、最初の私たちが登山道から出来てきた所からやり直すべきだという点で、私と須田君は一致した。おばさんは、そちらではないと言い張るが、私たちは下りは自転車の方が速いことを生かして、先に降りて見に行くことにした。本当は強引におばさんの反対を押し切りたかったのだ。正直言って、このおばさんはあまり山に慣れていなようだと私は思っていた。
 一気に下り、私たちが出てきた所まで戻ってきた。林道の反対の先、すなわち私たちが出てきた時の右側を覗き込んだ。私と須田君は、てっきりそっちにも林道が続いているのだと思っていたが、なんとその先には道が無かった。
 そこにあった東海自然歩道の標識をもう一度眺めた。その標識は林道の左側を指しているように思えたが、よく見ると林道を渡るように示しているようにも見える。いや、まじまじと見ると、本当に林道を横切るのが正解のようだ。
 私と須田君は林道の反対側を見た。「あっ!」私は声を上げた。そういえば反対側に何となく踏み分けたように薮が薄いところがある。全体に雪がかぶっていて分かりにくいが、確かに踏み分け道である。
 私はFCYCLO 15番会議室で、よしみさんに教えてもらっていたことを思い出した。
「細いセメントの上を通る…」
確かそう言っていた。私はその踏み分け道に入って調べてみた。少し先に確かにセメントで固めた所がある。雪をかぶっているが、その平らでシャープな角はセメントに間違いない。よく見ると足跡もあった。どうやらこの道に間違いないようだ。
 私は降りてみた。道は小屋の横を通り先に続く。私は大坪君にそこで待っておばさんを呼ぶように言うと、先を調べてみた。足跡はいつからか複数になっていた。歩きながらざっと見ただけで、私たちの進む方向に3種類以上のソールの跡があった。トレッキングシューズが2つ、スポーツシューズが1つ。
 周りを見渡すと、左の沢の向こうにさっきの林道が見えた。ちょうどそこにあのおばさんが通りかかった。私は、この道に入ったか、どこまで進んだか聞いた。小屋の前までは行ったと言う。ということは、この足跡は3つともあのおばさんのものではない。これが正解らしいとおばさんを呼んだ。おばさんはこの道を見つけていながら、これが正規のルートだと気付かなかったのだ。

■ 崖っぷちと石畳を行く

 私たちは4人一列になってその道を進んでいった。ずっと足跡を見ていくと5人以上の人間が通っているようだ。雪が降ったのが昨晩だから、今日で5人以上ということだ。入り口の所になかったのが変だが、別の入り口があったのかも知れない。
 しばらく進むと分岐があり、東海自然歩道の道しるべがあった。左が国見山、右が室生だ。この分岐は地図に載っていた。やっぱりさっきの林道は地図には載っていなかったのだ。最初の標識の見間違い、雪で埋もれたトレイル、おばさんとの遭遇、ハイカーが付けた道しるべ、と不運(と言うとおばさんに失礼だが)が重なった結果の迷子だった。
 右へ行くと、だんだんと道は崖っぷちになってきた。右は急傾斜で谷に落ち込んでおり、下から水の落ちる音が聞こえてくる。下には滝があるのだ。
 幅があるところは押し、無いところは担ぐ。一カ所、幅が30cmほどしかなく、右が急激に落ち込んでいるところがあった。路面は石で、しかも雪解けで濡れている。
 やがて崖から離れ、乗れるような路面になってきたが、歩きのおばさんもいるので私たちだけ乗るわけにはいかない。一緒に押して歩く。路面は石畳になっている。しかしだんだん急な傾斜になってきて、結局また乗れなくなった。私は一度途中で足を滑らせて尻餅をついてしまった。

■ 一路、室生寺へ

 やがて林道に合流した。右手が橋である。左に行くのが正解だ。
 その林道と登山道の合流点で年配のご夫婦が休んでいた。挨拶をして、私たちも少し休んだ。しかしここからは下りの林道なので、楽に走れそうだ。
 そのご夫婦と今まで同行したおばさんに挨拶すると、私たちは先に林道を下りだした。快適なダートの林道である。すぐに林道が終わり、室生寺から続く車道に合流した。そこには4、5人のハイカーが休んでいた。挨拶をして、ちょっと話をする。どうやらあの足跡は、さっきのご夫婦とこの人たちのようだ。
 その人たちはここからバスに乗るようなので、私たちは別れて室生寺へ向けて走り出した。
 途中の龍穴神社でトイレを借り、先を急ぐ。すぐに室生寺についた。2年前に来たときには、ここでヨモギ入りの回転焼きを食べた。行ってみると、今年もやっていた。1人2個ずつ買い、須田君と大坪君は甘酒も飲んだ。店の主のおばさんは、寒いだろうと私たちを店の中に入れてくれた。私たちは喜んで好意に従い、しばらくの暖を楽しんだ。

■ 榛原へ走る

 おなかも暖かくなったので、私たちは再び出発した。時間がもうないのであとは帰るだけである。室生口大野駅から帰ってもいいが、榛原駅まで行けば、始発の準急がある。また、榛原駅の近くに「みはる温泉」というのを見つけていた。この寒さでは温泉はうれしい。
 室生寺から一気に下る。すぐにR165との交差点に出た。ここからはR165で榛原に向かうのだ。
 R165の登りはきつく長かった。登り切って下ると、大坪君がいなかった。止まって待ったがなかなか来ない。日が暮れて暗くなり始めたので、私と須田君は尾灯を灯し、前照灯も取り付けた。
 随分たってから大坪君がやってきた。体力が尽きたらしい。まあ、榛原まではあとは下りなので、大丈夫だろう。前照灯を灯すと、再び走り始めた。

■ 温泉に入る

 近鉄の下をくぐると、みはる温泉の案内があった。線路沿いに東へ戻っている。そっちへ向かって走っていくと、だんだんと登りになってきた。前の方の山の中腹にそれらしきものが見える。みはる温泉は行ったことがないので、一般の者が入れるのかどうか分からなかった。この坂を登ってから宿泊客しか入れないと分かったらショックである。
 登り切って前に行ってみると、一般用の大浴場があり、時間もまだ間にあった。駐輪して入ることにする。
 大人は1人500円だった。まあ、普通の値段である。
 中は賑わっていた。どんどん出ていくのだが、同じだけどんどん入ってくる。町営の温泉なのだが、随分はやっているようだ。私たちもさっそく入浴を楽しんだ。
 今日は非常に寒かった上に、渓谷では雪で苦労し、おまけに道に迷った。乗車率は限りなくゼロに近く、押しと担ぎばかりで、自転車を持ってのハイキングであった。しかし、こうやって温泉につかっていると、そんなことはどうでもよくなってくる。まあ、それなりに楽しかったのには違いなかった。
 1時間ほどして風呂から上がると、私たちは榛原の駅に向かって夜の道のダウンヒルを開始した。

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